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読み物第一回 (2002/07/15)

オフィスレイアウトとコラボレーション

はじめに

読み物第1回は、オフィスレイアウトとコラボレーションというタイトルで、オフィスの机の配置について語ってみたいと思います。
コラボレーションとは、協働であるとか、共同であるとか、とにかく、単独ではなくて複数の人間がいっしょになって、ひとつの目的に向かって作業をおこなうと考えてください。会社の部署であるとか、プロジェクトチームであるとかは、かならずコラボレーションが必要です。

日本の一般的なオフィスレイアウトの謎

日本の一般的なオフィスは、広大な部屋にチーム毎に島を作って、リーダーがいわゆる上座の位置に座ります。しかも、偉い順にリーダー席に近い位置となるようです。(図1)

図1 日本の一般的なオフィス (机は140x70cm 通路幅は180cm程度)


なぜ、このような配置をとるのでしょうか?何か、積極的な理由があるのでしょうか?
以前在籍していた会社のお客様先に常駐していた際に、このような配置のときがありました。非常に仕事がしづらかった記憶があります。やっていたのは、メンバーで相談して各人の分担部分の報告書を作成するという仕事です。この読み物のタイトルのコラボレーションを必要とされる仕事です。

リーダーの役割

よく言われる格言に「ほうれんそう」というのがあります。報告、連絡、相談で、「報連相」のことです。リーダーの役割を極めて単純化すると、一般にはある規模の仕事を分割してメンバーに割り当て、その管理をし、結果の整合性を確保することにあるといえます。そのためには、メンバーからの「ほうれんそう」は非常に重要で、言いえて妙なことばだと思います。
ひるがえって、日本の一般的なオフィスレイアウトは、この「ほうれんそう」を実行しやすい状況になっているでしょうか?
リーダー席からは、チームの全体が見渡せそうです。サボっているメンバーがいないか監視するには適しているように思われます。一方、メンバーがリーダーと大声を上げずに会話するためには机の周りをぐるっとまわらなければなりませんから、コラボレーションには適しているようには思えません。

個人が集中して行う作業の効率

仕事をしている以上、「ほうれんそう」ばかりではなく、個人が集中して作業を行っている時間も相当あるはずです。
作業に集中しやすい環境とは、静かで、邪魔されず、他人の視線などに惑わされないような、例えば個室やパーティションで仕切られた空間などが典型的だと思います。
日本の狭い環境では、このような理想的な個人作業スペースを得ることは困難ですし、コラボレーティブな仕事に適しているとも思えません。とはいえ、島型の従来型レイアウトは、個人が集中して作業を行う環境としては最悪の部類であるということはできそうです。

パソコンの存在

10年前のオフィスには、パソコンなどほとんどありませんでした。こんにちでは、ほとんどの机にパソコンが置いてあります。作業性を考えると、画面の広いデスクトップパソコンが有利ですから、15インチの液晶ディスプレーが机の上に置いてある場合も多いでしょう。
ディスプレイの高さは、机上面から35cm程度で、床面からはおよそ1mとなります。
この状態はすなわち、チームの島の真中に高さ1mのパーティションが設置されたのと同じといえるのではないでしょうか?これは、向かい合わせに座った人物の視線を遮ってくれますから、個人が集中して作業を行う環境としては一歩前進かもしれません。

お互いの距離

図1に、メンバーとリーダーの席を中心として半径2mの円を描いてみます。すると、リーダー席からは、一番近い2名がかろうじて円内に含まれ、メンバー席からは、背中合わせのチームの3名と両脇の2名と、向かい合わせの1名の都合6名が円内に含まれます。
リーダー席は、だれからも遠く、メンバー席は隣のチームの人と近いということがわかりました。

図2 メンバーおよびリーダと他人との距離

このことは、メンバーは自分と関係の無い作業をおこなう背中合わせの人たちから邪魔をされやすく、リーダーは比較的プライバシーが保たれやすいということがわかります。
一方で、メンバーよりもリーダーはコラボレーティブな仕事がおおいはずなので、これはかならずしもメリットではありません。

効率的な机のレイアウト

では、どうするかです。
背中合わせに座っている人たちは、物理的な距離が近いということがわかりました。従来の配置では、かれらとコラボレーティブな仕事をすることはなく、物理的に遠い向かい合わせ側の人たちと一緒に仕事をしていました。
背中合わせの人は、これまで、自分の仕事の邪魔ではありましたが、だからといって仕事に支障をきたすほどではありませんでした。向かい側は、パソコンが間にあるため、遠い存在でした。
これらをまとめると、図3のような通路をはさんで両側をチームと考えるのが妥当なようです。

図3背中合わせ配列のオフィス

さらに、壁側の通路をなくすことができ、スペースがひろがりました。チームの境界となる机の間には、着座で視界を遮り、立位で邪魔にならない程度の低めのパーティションを設置します。

背中合わせ配置でのチーム内の配置

従来型の島型配列では、作業効率を考慮することなくあたかも宴会の席次のように地位の上下(うえした)が席の上下(かみしも)と一致していました。作業効率(というよりも、コラボレーション)重視の背中合わせ配列では、メンバーの役割を元に効果的な席次を決める必要があります。
まず、チームの配置を考えます。中央の黄チームは、赤チームとも緑チームとも接しています。よって、全体を統括するようなチームがこの場所を占めるべきです。システム開発であればプロ管チームなどが想定されます。
チームのリーダは、メンバーを指導し、他チームとの連絡などを行います。したがって、赤チームはFの席が赤チームのメンバーの多くと距離が近く、黄チームのCとも近いのでリーダ席に最適です。同様に緑チームはC席がリーダ席となります。黄チームは他チームとの関係から赤チームに面したC席か緑チームに面したF席がリーダ席となります。
リーダの背面は、サブリーダの席です。リーダとサブリーダの連携がよくないと、チーム全体の整合性やリーダからサブリーダへの作業の委譲がうまくいきません。
リーダおよびサブリーダの左側に、もっとも多くの指導をする必要がある新人を配置します。リーダやサブリーダが右利きで、右手で文字を書くのであれば、紙に書いて説明するなどの指導を行う際に、左側だと腕が邪魔せずに書いている文字を見ることができます。その反対側は、中堅のメンバーを配置します。
ひときわ離れたA席は、もっとも手のかからないメンバーや庶務担当などに割り当てるのが妥当です。

背中合わせ配置のメリット

まず、チーム作業の効率化が考えられます。頻繁に「ほうれんそう」をする相手は、椅子を回せば2m以内に居ます。この距離の短さは、報告のために机を回る時間1回あたり30秒を1秒に短縮します。時間の差を合計した時間短縮ではなく、報告したり相談したりという行為に対しての障壁が1/30に低くなることが重要です。さらに、チームでミーティングを行う際には、全員が椅子を回して通路を会議スペースにすることができます。通路を占有しても問題はありません。他のチームの人がその通路に入る必要がないかからです。チームミーティングのための会議室予約が必要なくなり、容易に頻繁にチーム内での情報共有が可能になります。
つぎに、個人作業を行っている際のプライバシーの確保が挙げられます。近くに居るのは自らのチームメンバーであり、作業スケジュールや作業内容が似通っていますから、他のチームメンバーに較べて邪魔になることは少ないでしょうし、邪魔されてもそれが本当に必要な場合であることがおおいでしょう。さらに、着座姿勢では自分に向いている視線は存在しませんから、集中の邪魔になることはありません。

エクストリームプログラミングへの適用

最近のシステム開発手法で話題のエクストリームプログラミング(以下XP)では、ペアプログラミングという手法をとります。2人で一組になってプログラミングを行います。一人がキーボードを叩いているときには、ペアの相手は画面を見て間違いを見つけるようにします。
ペアプログラミングを行う場合であっても、1日中コーディングだけをしているわけではないでしょうから、各人に机が必要です。では、このペアの机はどう配置するべきでしょうか?
ペアプログラミングでは、ペア2人が同時に画面を見る必要があります。向かい合わせの2つのディスプレイに同じ画面を表示することも可能ですが、普通は1台のディスプレイを一人で並んで見るでしょう。
では、机を並べて配置するのが効率的でしょうか?横並びの場合は、椅子を1.5mほど横に移動させなければなりません。当然ペアプログラミングでも背中合わせ配置が効率的です。椅子を回転させれるだけでほとんど横並び状態です。

まとめ

コンサルティング会社で様々な会社に出向いて仕事をしている中で、机の配置がチームの生産性にきわめて重要であるということをなんとなく感じていました。背中合わせはある会社が実際に行っていた配置です。現在島型配置を取っているオフィスであれば、背中合わせに変更することにほとんどコストはかかりません。
ペリアンダーの読み物ページの第一回目にこのテーマを選んだのは、「普通の落とし穴」の典型的な例に思えたからです。「普通はこうだから」とよく考えずにやっていることは多いと思います。そこに、改革のポイントがあるかもしれません。「普通は島型に机を配置するから、うちもこうする」と考えてしまってはいけません。環境は変化します。パソコンが置かれることで、島型配置のメリットはなくなっていました。普通に考えていると、そこでオフィスレイアウトを変えようとは思いません。でも、それではデメリットばかりで企業は競争力を失っていくはず。
私(斉藤)は、カレーを作ります。学生時代に基本的なレシピができていて、生姜は刻んでいれるもんだと思い込んでいました。先日テレビを見ていて、生姜は皮を剥かずに横向きにおろすのがよいと知りました。これをきっかけに、なんでカレーに生姜を刻んで入れているのかを考えたら、学生当時自分はおろしがねを持っていなかったからであるとはたと気づきました。これも「普通の落とし穴」にひっかかっていた一例です。
オフィスレイアウトやカレーの作り方だけでなく、なにも考えずに普通の一言でやっていることこそ、なぜそうやっているのかを考え直すことが必要だと思います。

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